中国の“ゼロマイル中古車”輸出とは？地方政府が後押しする水増し販売の実態と世界へのインパクト

1. ゼロマイル中古車とは何か――仕組みと市場規模を徹底解説

中古車と言いながら走行距離はわずか “0〜100km”──それがゼロマイル中古車です。工場から出荷された新車をいったん国内で登録（ナンバー取得）し、その日のうちに「中古車」へ再分類することで輸出規制を回避するカラクリが生まれました。
2024年、中国の中古車輸出台数は43万6,000台。うち約90％がゼロマイル車だと業界紙『中国汽車流通報』は試算しています。統計上は中古車ですが、海外ディーラーの実感は「ほぼ新車」。国内メーカーにとっては
①在庫を一掃しキャッシュを確保、
②販売実績を“＋1台”として計上、
という二重のメリットがあります。

2. 地方政府が支援する理由――GDP水増しと成長目標達成のプレッシャー

ビジネス拡大の裏には地方政府の後押しが欠かせません。具体策は以下の３つ。

• 追加ナンバープレート枠……登録台数を増やすため特別枠を交付
• 輸出税還付……完成車輸出と同じ優遇税率を適用
• 保管・集積施設の無償提供

こうして輸出前・輸出後で取引額を“2倍”計上でき、地域GDPは一気に膨らみます。中国の官僚評価は「経済成長率」で決まるため、ゼロマイル車は数字合わせの救世主になっているのです。

3. 国際的懸念と規制の動き――ダンピング指摘から輸入規制強化へ

しかし海外では“隠れたダンピング”との批判が拡大中です。

• ロシア……2024年4月、走行距離1,000km未満の中古車への追加関税（15％）を導入
• ヨルダン……「中古車は3年以上経過」が原則のためゼロマイル車は事実上輸入不可

EUや北米でも関税・CO₂規制を絡めた抑制策が検討されています。ブランドイメージにも影響し、現地消費者の間では「中国車＝品質は高いが、市場を荒らす存在」という評価が生まれ始めています。

4. 重要な洞察――数字と在庫、二兎を追うゼロマイル戦略の限界

ゼロマイル中古車輸出は、国内在庫処理と統計水増しという二重の目的を同時に達成する“巧妙な仕組み”です。地方政府の支援で急膨張しましたが、海外の視線は日に日に厳しくなっています。ダンピング認定や追加関税が本格化すれば、在庫も統計も逃げ場を失うリスクが高まります。

短期的には輸出台数を押し上げても、長期的には信頼性とブランド価値を削りかねません。今後、中国メーカーが「量から質」へと舵を切れるかどうかが、世界市場での生存戦略の分岐点となるでしょう。

5. まとめ

1) ゼロマイル中古車は“ほぼ新車”ながら中古車として輸出される特殊スキーム。
2) 地方政府のGDP水増しや官僚評価と直結し、制度インセンティブが強烈。
3) 海外ではダンピング認定と輸入規制が広がりつつあり、ビジネスモデルは曲がり角。
今後は透明な統計と公平な貿易ルールづくりが求められます。